【歴史の本】河合秀和『チャーチル 増補版』|激動の時代を生き抜いた英国首相の伝記

今回は、河合秀和『チャーチル  増補版』(中公新書、1998年)の紹介をします。

 

1.概要

第二次世界大戦時の英国首相ウィンストン・チャーチルの伝記です。

モールブラ公爵家の傍系に生まれたチャーチルは、陸軍士官学校から陸軍軽騎兵隊を経て、政治家の道に進み、海相や蔵相へとハイペースで出世を遂げます。

しかし、その後、自由貿易論争において保守党から自由党に転校したことへの批判などを理由に、しばらくは不遇の時代を過ごしました。

そして、第二次世界大戦時に首相となってからは、ヒトラーのナチスドイツに抗戦する方針を貫き、多くの代償を払いつつも英国を守り抜きました。

チャーチルの葬儀は、国葬であったそうです。

著者の河合氏は、学習院大学名誉教授。

2.感想

(1)最初を我慢すると、一気に面白くなる

この本は、チャーチルのルーツであるモールブラ公爵家の成立から始まっているのですが、この最初の部分がどうにも小難しい話で、ぼくは正直「ハズレを引いたかな?」と思いながら、少しの間、我慢して読み進めていました。

すると、チャーチルが陸軍士官学校を卒業し、青年将校となるあたりから急激に面白くなっていき、チャーチルの怒涛の軍隊経験と浮き沈みの激しい政治家人生を気分よく読み進めていきました。

最初の方で投げてしまわなくてよかったと思います。

(2)誇り高き英国紳士として生きたチャーチル

この本は、政治家であるチャーチルの物語なのですが、特にスキャンダルも無ければ、陰謀に加担する場面も出てきません。

チャーチルは、意外なほど実直に、誇り高き大英帝国の議員として振る舞い続けます。

もしかすると醜聞を河合氏が書かなかっただけかもしれませんが、少なくともこの本の中のチャーチルは、自らのための資金を新聞記事や本を執筆することで調達しながら、私利私欲のために公的な立場を利用する素振りすらなく、国家と国民のために働き続けます。

政治家というものは腐敗し、卑劣なことばかりするものだという先入観を持つぼくとしては、この本を読んで、歴史の中には尊敬すべき政治家もいたのだという当然の事実に自らの無知を恥じるばかりです。

(3)恵まれた立場の人間には、それゆえの悲しみもある

本の最初の方で、チャーチルの幼年期も書かれているのですが、彼と弟のジャックは、ほとんど両親の手で育てられることなく、乳母の手によって育てられているんですよね。

両親が子育てに関心が薄かったことによって、ウィンストンとジャックの兄弟は寂しい思いをしていたようです。

上流層らしいと言えばそれまでですが、血の繋がった両親が生きていて、しかも同じ屋根の下で生活しているのに、あまり相手にしてもらえないというか、関心を払ってもらえないというのは、小さな子どもにとっては悲しいことだったはずです。

チャーチルは、多くの場面で公爵家の係累であることから優遇されて生きていたのだろうとは思いますが、すべてに恵まれていたわけではないようです。

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