あずみきし『死役所 11』|肥大した自意識はときに持ち主を殺す

今回は、あずみきし『死役所  11』(バンチコミックス、2018年)の紹介をします。

 

1.あらすじ

この巻には、

・司法を通して「正義」を考えた男性の話(「裁きの先に①~③」)

・気になることを抱えた右足に障害のある男性の話(「自責」)

・宇宙人を呼び出そうとする女子中学生たちの話(「ハロー宇宙人」)

が収録されています。

 

2.感想

(1)何を自らの「正義」とするか

この巻のメインとなる「裁きの先に①~③」では、強姦事件の裁判を傍聴している男性、坂東が裁判員の男性の振る舞いに嫌悪感を抱き、自らの「正義」に直面します。

坂東は強姦事件の被害者に味方し、裁判員の男性は加害者に肩入れしているわけですが、この2人の振る舞いの違いは、何を正義とするかという価値観の違いによるものでしょう。

では、その価値観の違いはどこから来たものなのか。

坂東は妻と娘と一緒に食事をとっていますから、妻子と過ごすうちに被害者側に自らを置いて想像力を働かせるようになったのかもしれませんが、裁判員の男性はどうして加害者側に自らを置いて事件について考えたのでしょうか。

その辺りの事情も描写されていたら良かったと思いますが、どちらにせよ、この何に重きを置くかという「正義」の問題は、人間性を問うよなぁ、と思いました。

ちなみに、ぼくは坂東と同じで、この裁判員の男性キャラの言動は嫌いです。

それは多分、ある尺度での強者の都合を優先し過ぎる今の日本社会をあまり居心地よく思っていないからでしょうね。

(2)シ村の皮肉がいつもより薄っぺらく感じた

この「裁きの先に①~③」で登場する坂東は、自分とは直接関係のない裁判の裁判員に対して覚えた義憤とも言える怒りを理由に命を落としてしまっています。

当然、裁判員の男性に自らの非難が届くわけもなく、死後の評価は「いい歳こいてみっともない真似して死んだ間抜け」でしょうし、死役所職員の松シゲが指摘しているように、家族のことも考えていません。

また、裁判員の男性も、自分の価値観を開陳するような質問を被害者にする必要など無いのに、わざわざ好奇心からの質問をして知らない人間の怒りを買って面倒事に巻き込まれたわけです。

どちらも、およそ賢いとは言い難い振る舞いをしていて、言ってしまえば「阿呆」なわけですが、それでも彼らは彼らなりに1つの事件について親身になって、自らの価値観を参照して考えていることは間違いありません。

それを思うと、「阿呆」なりに真剣だった彼らに比べて、坂東に「割に合わないことをしてしまいましたねぇ」(97頁)などと利口そうに言い放つだけのシ村は、どうにも想像力を欠いていて、薄っぺらく感じました。

まあ、そういう作風といえばそれまでですけどね。

(3)自意識の肥大化という病

まあ、ここまで色々と書きましたが、ぼくはこの巻のテーマを「自意識の肥大化」だと思いました。

「裁きの先に①~③」の坂東や裁判員の男性が、他人の問題に過ぎない裁判に深入りし過ぎて、自分の問題にしてしまっていることも、「自責」で男性が自分が怪我をしてしまったことを他人がいつまでも気に病んでいると思っていることも、「ハロー宇宙人」で中島さんが友達を自分の一部のように感じていたことも、言ってしまえば、自意識過剰でしょう。

自分と他人、自分の問題と他人の問題を区別できないと、余計な苦しみを抱えたり損をしたりします。

逆に、要領のよい人たちは、おそらく、彼らは自分の問題と他人の問題を、意識してか無意識にかはともかく、区別しているのでしょうね。

そして、要領のよい人の一部は、要領の悪い人たちが自分の問題と他人の問題に境界線を引くのがあまり上手くないことに気付いていて、要領の悪い人たちに自分の問題をその人の問題であると錯覚させることもできるのではないかと、最近、勘繰っています。

「え!いまさら気付いたの!?」とか言わないでくださいね。

死役所11(BUNCH COMICS)

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